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縮小の時代

太陽光発電:買取制度の不自然

住宅用太陽光発電の余剰電力は、電力会社が42円/kWhという、通常電力料金の約2倍で買取ることになっている。この制度は太陽光発電の普及促進のためだろうが、自然の流れに逆らった無理を感ずる。

(1)太陽光発電がなかなか普及しないのは、経費が高くつくからだが、経費が高いということは、太陽光発電装置の生産に火力発電以上の化石燃料を消費している可能性が高い。仮に生産エネルギーが小さくても、経費がかかること自体が余分なカネを動かすことであり、それは化石燃料の消費を促す(6月16日記事)。

(2)普及しないもう一つの理由は、大きな変動という不利があるためである。いくら普及しても発電できない時には火力発電に切り替えなければならないから、火力発電は廃止できない。太陽光発電が普及すればするほど火力発電は部分負荷での運転が増えて効率が落ち、化石燃料節約効果(仮にあったとしても)も下がる(6月3日記事)。

(3)雨天や夜間は発電できないから、太陽光発電が如何に普及しても年間電力需要の100%にはならない。最大でも50%は不可能だし、仮に50%を供給しても、化石燃料節約は50%より遥かに小さい(マイナスの可能性もある)。普及すればするほど発電変動への対応が難しくなり、電力会社の負担は増大する。発電量が需要を上回る時には、買取った電力を無駄に捨てなければならなくなる(揚水発電は極めて効率が悪い)。デンマークやドイツでは外国に輸出しているが、それは欧州全体から見れば太陽光発電が少ないからできることなのである。

(4)買取制度は、買取る側から見れば、変動の多い(質の悪い)太陽光発電の電力を質の良い(安定した)火力発電の電力より高く買わなければならない、市場の原則に反する不合理な制度である。

(5) 買取制度の損失は税金または通常電力料金の値上げによって国民が負担することになるが、これで太陽光発電の設置者がモトを取れば、設置者は利益を得たことになる。太陽光発電を設置できる人は大きな戸建に住む比較的豊かな人である。集合住宅の住民や、戸建てでも下町の込み入った地域の住民は設置したくてもできない。買取制度は金持ちが得をし、多くの貧しい人が損をする制度である。

(6)買取制度を有利に活用するため、できるだけ節電して売電量を増やそうとする人がいる。節電できるなら太陽光発電を導入しないで節電した方が地球環境には有利である。

(7)普及してもコストが下がるかどうかはわからない。半導体や液晶など工業製品の製造コストは、普及量が2倍になると約2割安くなると言われているようだが、それは経験則に過ぎず、今後も続くという理論的根拠はない。現に、標準のアモルファス型太陽光発電装置は、ここ10年で生産量が約2倍になっているが、設置料金はkW当り約70万円と横ばいである。
(日本電機工業会 関西光発電普及推進委員会)

(8)今後、生産が物価の安い外国に移ってコストが下がったとしても、それは世界の化石燃料消費が下がることを意味しない。また、外国製品への依存体質の強化は好ましくない。

太陽光発電の普及の障害は、カネが足りないことや観念的な抵抗ではなく、物理的な不自然があるためである。普及したらますます問題が大きくなり、扱いにくくなる物を補助金をつけて無理やり普及させるのは不合理で、環境負担を軽減するという本来の目的を達することはできない。
2011年6月18日


  1. 2011/06/18(土) 13:45:26|
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