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藻からバイオ燃料―うまい話?

先日(1月4日)の東京新聞にも出ていたが、藻からバイオ燃料を生産することが話題になっている。日本では筑波大学が研究の先端にあるようで、現在のところ世界一の生産効率を得ているという。非常に繁殖力が高い藻が発見され、これをうまく利用すれば、世界の全耕作地面積の1/10以下で、世界の石油需要のすべてを補うことができるそうだ。これなら、脱化石燃料、脱原発をしながら再生可能エネルギーで需要に対応できる、まことに結構な話だ。だが、そんなにうまい話が本当にあるだろうか?

筑波大学が研究している藻についてインターネットで調べてみると、オーランチオキトリウムという舌を噛みそうな名前の藻で、自分では光合成をせず、外部から有機物を取り入れて増殖するのだそうだ。研究では、外部の有機物源として下水を使うことにより、エネルギーの生産と下水処理とが同時にできるという優れた特徴があるという。しかし、自分で光合成をしないから、太陽エネルギーを直接バイオエネルギーに転換させるのではない。藻が行うのは周囲にある有機廃棄物を集めてよりエネルギー密度の高い有機物に凝縮するだけで、新たなエネルギー生産はしない。これを第二段階とすれば、その前に、正真正銘のエネルギー生産(太陽エネルギーの固定)としての光合成を行う第一段階が必要で、これは他の植物に頼らなければならない。結局、オーランチオキトリウムは、その凝縮の効率や速度がいかに大きくても、エネルギー資源という最も本質的な問題に対しては何の寄与もしないのである。

エネルギー転換の効率についても、この藻による第二段階の凝縮効率がいかに素晴らしくても、第一段階も含めた、太陽エネルギーからバイオエネルギーへの合計の転換効率は、普通の植物と何ら変らないか、あるいは、二段階を経るだけ却って悪いのではないだろうか。また、第二段階の凝縮速度(藻の増殖速度)がいかに速くても、その速度は周囲にある有機物の量に制限される。しかし、下水中の有機物の量は高々知れたものである。有機物の供給量を増やそうとすれば、結局はどこからかバイオマスを捜してこなければならない。手に入るありとあらゆる植物や動物の残骸を投入したところで、現代社会の大量のエネルギー需要の一端を補うに足るほどには成り得ないだろう。

オーランチオキトリウムとは違って、東大やユーグレナ社が開発しているミドリムシ(Euglenaユーグレナ)という微細藻類は光合成をするそうだ。ミドリムシは、増殖速度はオーランチオキトリウムには遥かに及ばないものの、高濃度のCO2下で急速に増殖することが特長で、大気の400倍近い15%ものCO2濃度を含む火力発電所の排ガスを培養層に吹き込んだ実験で、増殖速度が通常空気の場合の20倍にも達したという。ミドリムシから得られるバイオ燃料はジェット燃料に近いので、特に航空機用燃料として有望視されているようだ。

だが、高濃度のCO2で急速に増殖するということは、これをエネルギー生産に利用するためには、高濃度のCO2の供給が必要ということである。このCO2はどこから来るのだろうか。火力発電の排ガスは、もとは化石燃料だから、結局は化石燃料が必要になる。増殖速度を増すためにCO2濃度を高めようとすれば、より多くの化石燃料を使い、排ガスの濃縮に余分なエネルギーが要ることになる。生産したバイオ燃料の排ガスを利用すれば、他のエネルギー源を使わずにCO2の循環になるが、航空機燃料などに使ったら、排ガスの回収は不可能である。バイオ燃料をどんな用途に使うにせよ、排気中のCO2を効率よく回収することは困難で、回収率は極めて僅かにしかならず、結局は別のCO2源(すなわち燃料源)が必要だろう。オーランチオキトリウムと違って、光合成によって太陽エネルギーからバイオエネルギーへの転換も同時に行うが、肝心なことは、投入した化石燃料と比べて得られたバイオ燃料のエネルギー利得がどのくらいになるかである。これは、現代社会の大量エネルギー需要の一端を支える新しいエネルギー資源になり得るかどうかを左右する重要なことだが、現在のところそれに関した情報が何もない。ということは、あまり期待できないということだろう。

枯渇性である化石燃料の大量消費に頼った社会はいつまでも続かないから、いつか必ず再生可能エネルギーを主体とする生活に変えて行かなければならない。それも、化石燃料の枯渇を待つのではなく、できるだけ早くそうする必要がある。再生可能エネルギーにもいろいろあるが、基盤となるのはバイオで、それ以外にはない。なぜなら、他の再生可能エネルギーは電力に変えて使われるが、その発電や送電の装置を生産するためにはどうしても大量の火力エネルギーが必要で、再生可能な火力エネルギー源は結局はバイオしかないからである。また、エネルギー需要としては、現在でも電力より火力の方が多い。電力はなくても何とかなるが、火力がなければ人間は生活して行けない。更に、火力エネルギーからは必要に応じて電力をつくれるが、電力を火力に変えるのは極めて非効率である。

したがって、将来の基盤エネルギーがバイオエネルギーであることに間違いはないが、問題は人間が使える量はどのくらいあるかで、大量エネルギー消費の現代から見ると、非常に少ない。エネルギー研究者であるスミル[1]によると、地球一次生産量(NPP:Net Primary Productivity、地球上の光合成生産の総量)は、人間の一次エネルギー使用量の4倍もある(2005)と言われているが、既に人間が消費する世界の一次エネルギー総供給量の10%がバイオエネルギーであり、燃料以外も含めれば既に地球一次生産量の30-40%を人間が利用している。この40%という値も世界平均の話で、東アジアでは60%以上、西欧では70%以上に達しているという。
[1]SMIL, Vaclav "Global Catastrophes and Trends" MIT Press, 2008, p83-84

仮に燃料以外に使われた植物をすべて最終的に廃棄物エネルギーとして利用しても、バイオは現在の世界の一次エネルギー消費量の40%にしかならない。地球一次生産のこれ以上を人間が利用すれば、ただでさえ損傷しつつある生態系はますます悪化する。エネルギー消費量が現在より桁違いに小さかった昔でも、燃料のため森林を過剰伐採して滅びた文明があった。それに、植物を燃やしてしまえば栄養分が土に戻らず、土地は劣化して生産力が落ちる(江戸時代には町から灰を集めて肥料にする商売が成り立ったが、工業文明の現代では不可能だろう)。

地球一次生産量を増やすには、燃料植物の栽培に適した土地を新たに見つけなければならないが、そんな土地は残っていてもエネルギー需要から見れば微々たるものだろう。それより、食糧生産の方がこれからは重要になる。

オーランチオキトリウムもミドリムシも、開発や利用が無意味というわけではない。前者は下水処理ができ、後者は化石燃料のCO2固定ができる。そして、いずれもその際に多少のエネルギー生産もできる。だが、いずれも、少なくとも今のところは、このエネルギー大量消費の工業文明の一角を支えるに足るほどの新たなエネルギー資源には成り得そうもない。

新エネルギー技術については、必ず熱力学の第一、第二法則に照らして考える必要がある。もともとのエネルギー源はどこから由来するか、それはどれだけ集め、どれだけ利用可能か、もとのエネルギー源から人間が使う形にエネルギーを転換させる際に、どれだけ他の資源やエネルギーを必要とするか、どれだけの効率、どれだけの速度でエネルギー転換できるか、それらの過程でどれだけの環境負担をかけるか、これらすべては持続可能か、等々。これらのうち一つでも欠けていれば、社会を支えるエネルギーには成り得ない。ところが、現在はこれらの一部、特にエネルギー転換技術だけに関心が集中して他の要点は顧みられないことが多い。技術的に転換が可能であるとか、資源の総量が多い(太陽輻射エネルギーが多いとか、宇宙に最も多い元素は水素だという類の)ということだけで、その他のことは無視して、あたかも将来のエネルギー問題の解決の糸口でも見つけたように過大な期待をかける。マスコミもいつもこのような取り上げ方をするし、開発者は都合のよいことしか言わない。

このブログで何回も書いているように、現在の我々に必要なことは、新たなエネルギー源を捜すことではなく、エネルギー消費量を大胆に削減することである。もちろん、物に溢れた現代の浪費生活とはおさらばしなければならないが、その方が人間らしい幸せな社会を取り戻せるはずだ。

一般の人達も、原子力神話には騙されないぞと憤っても、再生可能エネルギー神話にほどんど疑問を抱かない。簡単に技術を信じて「うまい話」に飛びついてしまうのは、贅沢な浪費生活を続けたい、そのためにエネルギーを欲しいという願望に理性がくらまされてしまうからだ。このことが、エネルギーの将来について誤った判断を与える危険が大きい。科学は疑うことが始まりである。エネルギーの利用は科学である。エネルギー技術はまず疑ってかからなければならない。
2013年1月9日


  1. 2013/01/09(水) 21:06:13|
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