FC2ブログ

縮小の時代

トランプ新大統領に注目

アメリカは、トランプ時代がついに始まった。メキシコとの国境に壁を作る、移民を入れない、不法移民者は送還する、保護貿易をする、などといった過激な発言で、日本を含む世界中の「良識派」から非難の声が高く、アメリカでは歴代最も期待の低い大統領だそうだ。しかし、注目すべき点もある。

トランプが最も強調しているのは、雇用の確保である。今までの失業率は、就職難で求職を諦めた人は失業者に数えないなとか、数値上は失業率が減っても、低賃金や非正規雇用が増えたなどの統計上のカラクリがあって、真の雇用の安定性を示してはいなかった。トランプがいう雇用の確保とは、そんなインチキな失業率の減少ではなく、ひと昔のデトロイトの労働者のように、まずまずの賃金の安定した雇用を指しているように思う。本当にそうなら、それは従来の民主党大統領にさえ見られなかった、より民主主義を意識したもので、大いに期待できる。民主党の大統領候補としてヒラリーに敗れたが、多くの国民から熱狂的な支持を受けたバーニー・サンダースも、全ての人間の経済的な安定が確保されていない限り真の民主主義はないと演説していたので、この点ではトランプと共通している。

さらに、私が注目したいのは、トランプは「経済成長」という言葉を一度も言っていないことだ。現在は、日本も、欧州も、その他の国々も、皆経済成長を第一に掲げている。世界の経済はすでに地球の容量を超えて肥大化しており、仮にこれ以上経済成長しても、それは真の富ではなく、ただ虚構の富に過ぎない貨幣的な富の増加を意味し、却って富の集中を招き、不公平を増し、社会を一層不安定にするだけである。また、実体材の生産が増えたとしても、今やほとんど生活に必要のない無駄な消費財ばかりで、これも環境破壊を早めることでしかない。今大切なことは、これ以上の生産ではなく、富を少数に集中させず、より公平な分配を志すことである。大統領就任式の演説でも、トランプは、これからは政府の恩恵に預かるのはワシントンの少数ではなく人民 (people) だ、一部の特権階級(establishment)の勝利は人民の勝利に還元するのだと語っている。「経済成長」を語らず、人民の雇用安定を主張するトランプは、トランプ自身がそれを意識しているかどうかはわからないが、まさに「成長・富の集中」から「安定・分配の平等」への、非常に大きな路線転換であるかも知れない。そうだとしたら、これは画期的なことである。
(*1月25日追記)トランプは、昨年8月のデトロイトでの演説で、再び経済成長のアメリカと言っているのがわかった。したがって、彼は経済成長を不要とはしていない。しかし、雇用のために経済成長する、経済成長さえすれば雇用が増えるという言い方ではなかった。

TPP廃止、保護貿易によって国内の産業と雇用を守るという約束も、決して間違ってはいない。現在は自由貿易主義が世界に蔓延し、国と国の格差、各国内では少数の富裕層と大多数の一般人民との格差が広がっている。自由貿易で最も大きな利益を得るのは大企業や大金持であって、一般の労働者や小規模経営の人々にとっては、地方が寂れ、職場を奪われ、競争力を失うなど、不利益の方が多い。環境破壊、資源の無駄遣いもまた自由貿易が促進している。世界を一つの市場にする自由貿易主義は、世界人類の生活水準を向上させるように見えるが、その実態は、世界中の人々が、世界中の資源を使って同じような生活水準や生活習慣を求めることであり、結局は地球を食いつぶし、将来の人類の生活権を奪うことでしかない。そもそも、生物は自分の周りの自然環境が提供する資源の範囲で生活するものであって、人類も同じである。自分の知らない、遠い地域の資源まで好きなだけ使うことを全ての人間が行ったら、地球がいくつあっても足りないのは当然だ。保護貿易に反対し、アメリカ一国主義を掲げるトランプは、この意味で、自由貿易主義者達の目を覚まさせ、世界経済の方向を、本来のあるべき方向に変えるかも知れない。
もっとも、トランプが、現在の経済成長主義の行き詰まりの真の原因を認識し、本気にそれを変えようと思っているとは思えない。彼も所詮は共和党員であり、不動産で財を成した大金持ちである。雇用の安定も、保護貿易も、結局は現在の経済支配体制に屈してしまう可能性が小さくない。現在、世界の経済と政治の力を握っているのは、大企業と大金持ちである。彼らはあらゆる手段を使って経済の転換を阻止し、経済の民主化を阻止しようとするだろう。それでも、ここしばらくは、トランプ新政の行く末が非常に楽しみである。

移民の取締まりも、不法入国者に対してであって、すでに合法的に移民している少数民族を差別することはしないだろう。また、国土が広く、資源が豊富で、その割には人口が少ないアメリカ、もともと移民の国として大きくなったアメリカは、今後も貧しい移民を受け入れる義務はあるし、実際に一切の移民を拒否することもないだろうから、今はまだ非人道的と非難するのは早い。トランプが指している人民(people)の中には、現在差別に苦しんでいる少数民族も入るから、むしろ、少数民族にとっても、今まで良くなる可能性もある。

トランプが次期大統領に決まって以来、日本の論評はほとんど経済への影響に終始していた。トランプの保護主義や雇用確保の決心が、民主主義とどんな関わりがあるのか、日本の雇用制度や経済民主主義はどう変わるのか、と言った論評はほとんど皆無である。いつまでも旧態依然の経済成長主義にとらわれ、何のための経済成長か、経済成長が国民全ての生活と尊厳にどれだけ寄与するのかと言った、より大切なことには全く無関心で、全く情けない限りである。■
2017年1月21日
スポンサーサイト



  1. 2017/01/21(土) 14:00:49|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

プロフィール

石田靖彦

Author:石田靖彦

フリーエリア

最新記事

----------

過去の記事一覧

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (15)
環境 (20)
エネルギー (29)
原発 (45)
伝統文化 (0)
科学と技術 (21)
政治 (12)
政治・社会・経済 (48)
文化 (3)

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR