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縮小の時代

騒ぎ過ぎのノーベル賞

今年のノーベル賞受賞者の発表が始まった。日本人の受賞を喜ばないわけではないが、近年はあまりにも騒ぎ過ぎである。こんなことを言うと、偏屈な人間か、あるいは愛国心に欠ける人間と思われそうだが、敢えて一言することにした。

現在のノーベル賞はまるでオリンピックと同じである。マスコミがこぞって人々の興味を掻き立て、少数の「偉大な成功者」と崇め奉ることによって、受賞者の地位とその希少価値をいやが上にも高める。学問もスポーツも最高の権威ある賞の獲得競争になってしまった。大学も国も、それらの賞を一つでも多く獲得することに全力を挙げるようになっている。

しかし、学問もスポーツも、競争して賞を獲ることが本来の目的でないことは言うまでもない。賞はあってもよいが、騒ぎ過ぎは学問の本来の意義を損なう。学問は単に知識を広げることだけではなく、知識体系を広げることによって人間とは何か、人間は如何に生きるべきかについて、より深く哲学することに最大の意義がある。学問上の受賞をオリンピックの金メダルのように騒ぎ立てることは、却って学問を堕落させることにしかならない。賞の「権威」を高めることは、学問の「意義」と矛盾することもあり、かつて、権威主義に強く反対していたサルトルがノーベル賞を辞退した例がある。ノーベル賞を受賞した人の中にも、人に騒がれることを望まなかった人が大勢いるに違いない。人が他の人の学問的業績に感じ入るのは、それによって自分自身が物を考える上で多くを啓発され、教えられたと思うかからであり、世間で騒がれたか、賞を貰ったか、金儲けの種になる、さして必要でもない新商品に結びついたかなどはどうでもよいことなのである。

昔の学問は哲学と同じだった。ギリシャの学問も儒学もそうだった。儒学では、学問することは君子となるために自分を磨くことであり、その君子とは仁、義、礼、知を備えた人間、つまり、人にやさしく、信頼でき、礼儀正しく、深い知識を持った人間である。これは現在でもそのまま通じ、民主的で公平、健全かつ持続可能な、人と人との信頼関係に基づく社会の良き一員としてのあるべき姿である。

学問が功利主義と合体したのは、啓蒙時代から産業革命以後のことだろう。ノーベルのいた時期はそのような近代科学・技術の急成長期にあった。ノーベルは、その遺産を「人類のために貢献をした人に分配する」と遺言したという。その時代は科学・技術の発展がそのまま人類のための貢献と考えられていたかも知れないが、ダイナマイトの発明で遺産を築いたノーベル自身、ダイナマイトだけでなく科学の応用に慎重さを欠けば自然破壊、人間破壊をもたらすことを懸念していたと思われる。

現在は科学・技術の発展と人類への貢献とがますます乖離している。現在の科学は技術への応用価値が大きな比重を占める。そして、その技術といえば、それまでは大して必要でもなかった新たな需要を開拓して経済利益を高める手段でしかなくなったから、結局、科学もまた経済のためという色彩が非常に濃くなった。スポーツが金儲けの道具に堕落したのと変わりがない。このような科学・技術による環境破壊、格差拡大、人間疎外が目に余るようになった現在は、科学も技術も今までの拡大志向から、大きな方向転換が必要なのである。

中山伸弥教授によるiPS細胞の開発も、山中教授自身が倫理との関係をしっかり詰める必要があると述べておられるように、かならずしも人類に貢献するかどうかはわからない。仮にiPS細胞を利用した難病の治療法が開発されたとしても、それが世界中のすべての必要な人に直ちに応用できることにはならないだろう。自ずから、治療を受けられる人と受けられない人の区別が生ずる。高度で経費と時間のかかる治療法であればあるほど、少数の人間しかその恩恵に浴することはできない。これは、人間の格差を拡大することであって、社会全体にとっては貢献とは逆の効果になるかも知れない。あらゆる技術を駆使して難病を治したところで、人間の寿命が大幅に伸びるわけでもないのである。

ノーベル賞も、オリンピックも、他の賞や表彰も、拡大志向や経済効果を判断の基準とし、競争を煽り立てるようなものは、その役目はすでに終了し、これからの縮小の時代には重要性を持たない。ノーベル賞の受賞を目的とするような学問や大学に関する政策はもはや時代遅れであり、今後の社会の進歩を阻害するものとしか考えられない。
2012年10月10日


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  1. 2012/10/10(水) 14:08:54|
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