FC2ブログ

縮小の時代

大学の道を忘れた現在の大学

「論語」、「孟子」、「中庸」と並んで儒学の必読書である四書の一つ「大学」の冒頭にこう書いてある:

「大学之道、在明明徳、在親民、在止於至善」
 大学の道は明徳を明らかにするに在り、民を親しむるに在り、至善に止(とど)まるにあり。

儒学は身分制度を安定させるための、支配者のための学問とされ、現在ではほとんど顧みられることはないが、「論語」でもわかるように、現在でも通用する真理は非常に多い。儒学の言う王道は決して権力で民をねじ伏せて、富を吸い上げることではなく、支配者自らが民と同じ視線に立ち、民を第一とし、人間としての最高の徳を以て国家の平和安定を志すことだからである。

当時の大学は最も高度な教育を施す場所という意味では、今日の大学と同じである。「明徳」とは、孟子や朱子の解釈によれば、人間に生まれながらに備わっている徳の心であり、普通はそれが種々な条件により阻まれ、歪められている場合が多いので、それらを取り除いて本来の明徳を明らかにするのが学問ということである。「民を親しむる」とは庶民が親愛の情を以て結びつくこと、現在風に言えば「絆」である。「至善に止まる」とは、そのような最高の善の境地に留まることである(金谷治訳注「大学・中庸」岩波文庫)。

明徳を心得た人間が君子だから、大学とは君子を育てる場所であった。君子になるためにはもちろん知識も大切で、朱子は「格物致知」つまり知識を極めることによって物事の本質を極めると説いている。知識はあくまでも、徳を身に付けるための知識である。

「大学」にはこんな言葉もある:
「徳者本也、財者末也、外本内末、争民施奪」
 徳は本なり、財は末なり。本を外(うと)んじて末に内(した)しめば、民を争わしめて奪うことを施(おし)うるなり。

根本は徳であって、財は末端な事に過ぎない。根本である徳をおろそかにして末端である財を重んじることは、庶民を争わせ、奪い合いを教えることになる。

現在の「大学」は、まさに儒学が戒めている「財を本にする」そのものになっている。明治以来、第二次大戦後は特に、大学の目的は経済的人材を育てることを第一にしてきた。物質的生活水準がまだ低く、地球の限界には気が付かず、科学技術によって経済成長がいつまでも続けられることに疑いをもたなかった時代はやむを得ないとも言える。しかし、それが通用したのはつかの間で、結局は「大学」の教えの通り庶民が争い、奪い合う冷たい世の中になった。

今は限りある地球環境を工業文明が破壊していることを知った。いかなる技術を以てしても無限の経済成長は不可能であるばかりでなく、経済成長主義が却って不平等、退廃、無気力をもたらしていることを知った。末である財を第一としてきたことがやはり間違いであったことを人間は再認識したのである。

ところが、最高学府である日本の大学が、「大学の道」を忘れ、相変わらず「外を本にすること」、すなわち大学の目的は、ますます経済成長を推進する経済的人間を育てることにあると考えているようだ。日本の主要大学が率先して財にしがみついている。

東大が先頭になって12大学(東大、京大、北大、東北大、筑波大、一橋大、東工大、名大、阪大、九大、早大、慶大) が秋入学を実施しようとしているが、昨日、12大学と大手企業21社が集まって、国際社会で活動できる人材を育てる行動計画を決めた。国際社会で活動できる人材とは、明らかに大企業の利益、経済成長に貢献する人間である。秋入学はその目玉的な方法だが、秋入学で留学生が来やすくなれば国際的人材が育って日本の経済に貢献すると考えるのもあまりにも幼稚過ぎる。

現在の大学関係者に望むことは、大学は何のためにあるか、教育の本来の目的は何かをもう一度考えてもらいたいことだ。人間も社会も経済のために存在するのではない。経済成長や経済競争に勝つための人材教育が大学の本来の道でないことは確かである。大学進学率が高くなった現在の君子は、支配層の人間ではなく、「持続可能で質の高い社会の一員」と考えてよいだろう。そのような君子を育てることが大学の最も基本的な目的ではないか。
2012年5月8日
スポンサーサイト



  1. 2012/05/08(火) 13:41:49|
  2. 政治・社会・経済
  3. | トラックバック:1
  4. | コメント:0

プロフィール

石田靖彦

Author:石田靖彦

フリーエリア

最新記事

----------

過去の記事一覧

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (15)
環境 (20)
エネルギー (29)
原発 (45)
伝統文化 (0)
科学と技術 (21)
政治 (12)
政治・社会・経済 (48)
文化 (3)

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR